chapter.01 小暮学×落合陽一 超AI時代、私たちの暮らしはポジティブに変化する

対談者:株式会社インヴァランス
代表取締役 小暮学

テクノロジーが類を見ないスピードで進化し続ける現代。
時代の半歩先を生きる人は、いったい何を見て、何を考え、感じているのか、彼らの頭の中を知りたい――。

2045年には、人工知能(AI)が人間の知性や能力を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」が訪れると言われます。「AIが人間の仕事を奪う」など、人々の不安を煽る報道も少なくない。一方で、AIのことをよく知れば、AIが私たちの暮らしをより豊かに、便利にしてくれることも考えられるはず。すべての人にとって未知ともいえる、そんな超AI時代、私たちの暮らしはどんな変化を遂げていくのだろうか

blueprint」では、研究者、起業家、メディアアーティストなど、いくつもの顔を持ち活躍する「現代の魔法使い」こと落合陽一氏をオーガナイザーとして、超専門家を招いて次世代の暮らし方を考える。第1回は同プロジェクトを主催する、不動産事業を手がける、株式会社インヴァランス代表の小暮学氏が登場。インヴァランスが開発を進めている、AI、IoT搭載マンションのトピックで会話が始まった。

■次世代の住まい「AIマンション」

聞き手: 最近、御社の「AIマンション」の記事をメディアでよく目にします。米ブレイン・オブ・シングス(BoT社)が開発する、スマートホーム向けAI「CASPAR(キャスパー)」を搭載したマンションがあるとか?

小暮学(以下、小暮): 2017年からBoT社に出資を始め、今までになかったAIマンションの開発を共同で進めています。弊社にて販売中のマンション、LUXUDEAR高輪(ラグディアタカナワ)などにもキャスパーを導入し始めています。

落合陽一(以下、落合): キャスパーのこと、詳しく教えてもらえますか。

小暮: キャスパーは100を超えるセンサー(ビジュアルセンサー、モーションセンサー)やマイクで、温度や湿度、照度、振動などを感知し、入居者の生活を学習します。カーテンの開閉や照明、エアコン、床暖房のオン/オフなど、キャスパーを通じて制御できます。

落合: センサーはどこに付いているんですか?

小暮: 玄関や寝室、キッチン、トイレ、浴室など、家中の至るところですね。カメラも付いていて、入居者の動きを常に検知し、音声や各センサーで得たデータを元に最適な動作をします。弊社の社員にキャスパーを導入した部屋で、しばらく暮らしてもらったんですよ。

落合: キャスパーはどう学習していったんでしょうか?

小暮: 最初は入居した社員が電気などのスイッチを押して生活していましたが、3日くらい経つ頃にはキャスパーが住む人の行動をどんどん覚えていき、サポートしてくれるとわかりました。「キャスパー」と名前を呼びかけると応じてくれることも。AIって人に寄り添ってくれる点で、パートナーみたいだなって僕は思うんですよね。

落合: 最近のAIは生き物っぽいですよね。僕は、近頃のDeepLearningなど、機械が生物みたいに進化していく過程を見るのが面白い。

小暮: わかります。1日の間に、人が家の中でするアクションは約90といわれます。うち約8割をキャスパーが担ってくれるようになるんです。ほとんどの行動をAIがするようになる。

落合: 今でも普通にある、人感センサーで電気がつく仕組みが、ネットワーク化してカメラと組み合わさってよりスマートになって、さらにいろいろできるようになるイメージなんでしょうね。

小暮: 例えば、夜中に目覚めて寝室からキッチンへ水を飲みにいくとしますよね。現状の人感センサーだと、時間帯や状況に関係なく、同じ明るさで電気がつく。これが、今は夜中だから日中よりも薄暗い電気をつけてくれる、という風にもっと快適にスマートになっていくでしょうね。

聞き手: なるほど。もうひとつ、御社で開発したスマートアプリ「alyssa.(アリッサ)」についても伺えたら。

小暮: ハードウェアではなく、ソフトウェアやテクノロジーが、入居者の経験や体験をより良いものにできるのでは、という思いで開発を進めてきました。16年12月にβ版、17年2月に正式版をローンチし、LUXUDEAR高輪など、500戸以上に搭載しています。温度や湿度の調整や照明、エアコンなどのオン/オフをスマホから遠隔操作できるIoT機能(入居者限定機能)が付いています。

落合: 御社が作っているのは新築ですよね?

小暮: そうですね。センサーなどの機器とワイヤリングのインストールは大変なんですが、弊社はアーキテクツの段階から入れるので、センサーが感知できる距離の問題などを最初から計算してインストールしていくことができます。

落合: なるほど。中古車にカメラを付けても絶対にテスラモーターの車にはならないのと同じで、キャスパーにしても、アリッサにしても、レトロフイットさせるよりは、新たに建ててテクノロジーを搭載するほうがはるかに簡単ですよね。

※ レトロフィット:(注釈)
旧型のものを改造して新しい技術を組み込み、機能の追加更新や環境への対応を行うこと。

小暮: おっしゃる通りですね。中古物件に後付けしようとしても、結局センサー感知の問題が出ちゃうんで難しいですね。

落合: ちなみにキャスパーが取得する画像は、ローカルで処理していますか?

小暮: 驚かれると思いますが、そうです。

落合: もしクラウドに送っているとすると、画像を認識するまで2秒くらいかかるなと思ったんです。通信インフラが5G(第5世代移動通信システム)になると、画像認識速度が超高速になる。5Gは通信速度を10Gbpsに引き上げる方向で検討されていますし。そうやって超高速大容量、超低遅延の通信ができるようになると、AIやIoTの普及と結びついて、AIは僕たちの暮らしにより身近なものになっていくでしょうね。

■人は動かなくなる。AIを活用した健康維持・管理が進む未来

小暮: 先の社員が、「住んでいるとき、キャスパーが見守ってくれている感覚があった」と話していたのは、興味深いなと感じました。住めば住むほど自分自身でやることが減っていって、眠りにつきそうなときは、そっと電気を消して、カーテンを締めてくれるわけです。

落合: 人はますます動かなくなるでしょうね。太りますよ(笑)。

小暮: 人生100年時代、100年動かない人間がいてもおかしくない日が来るかも(笑)。そのぶん、人間は何か違うことをするようになるんでしょうね。

落合: むしろ、スポーツばかりしてるかもしれませんね。人間の体のことを考えると、心臓に負荷をかけないほうが長生きできますけどね。極端な話、まったく動かない人のほうが、運動する人より長生きしますから。

小暮: 確かに。

落合: AIが人の健康を管理するようになり、予防医療が当たり前になると、人の寿命はさらに伸びると思いますよ。AIマンションならぬ、AI老人ホームなんてすごく良いんじゃないですか。湿度の維持や換気を適切に行って、病気の感染経路を完全に断つシステムも夢じゃない。

小暮: 老人ホームに限らず、高齢者はAIマンションのターゲットです。例えばAIを活用することで、高齢者が室内で倒れてしまったら、家族にアラートを流して、異変を伝えることもできます。

落合: 5年後くらいには、高齢者がセンサー付きの家に住むのは普通になっていると思います。孤独死は減るでしょうね。

小暮: 高齢者は余生の6割を家で過ごすと言われます。そのぶん、室内で亡くなる可能性も高いわけで。スマート化していくべきですよね。センサー付きの家で、室温と体温の差を確認して、「◯度差があると暖房(冷房)を付けよう」とAIが学習してくれて、温度差を見て適切な室温に調整し、病気にならない状況を作ってくれる――そんな時代は数年後に来ると思います。

落合: 老人ホームに限らず、家の住みやすさはより重要になりますよね。ひとつの理由として、兼業する人がこの先増えていくからです。ひとつの職業に就いているだけでは、ポートフォリオ・マネジメントもリスク分散もできません。

小暮: ご著書『超AI時代の生存戦略:シンギュラリティに備える34のリスト』にも、兼業で働く人が増えるお話を書かれていましたね。

落合: はい、さらにテレワークも増えていくでしょう。メールの返信や電話対応をオフィスでやる意味はなくて、在宅でできる仕事です。家にいて動かなくなるわけですから、ヘルスケア分野がますます注目されるようになるでしょうね。

小暮: 室内でのヘルスケアを考えると、キッチンも×AIで進化していくと思います。料理の写真を見せると、それを作ってくれるAI搭載ロボットを製造する会社が海外にあるんですよ。現時点ではオムレツなど、ごく簡単な料理だけ作れるようですが。今後はテクノロジーを活用してキッチンがより便利になるだけでなく、健康になれる料理をAIが考えてくれるなど、UX、体験寄りの開発が進んでいくと僕は見ています。

落合: 冷蔵庫にカメラが付くだけでもだいぶ変わると思いますよ。電子マネーで食料を買って、冷蔵庫と連動させる仕組みを作れば、買ったものや作った料理、食べた時間などすべてデータになり、健康や食に関するいろいろな問題が解決するはずです。実際家の冷蔵庫でやるかどうかは、できるかどうかとは別の話ですけど。

小暮: カメラやセンサーさえあれば、データは取れますね。他に先んじてデータを取得できる体勢を作っておくと、僕たちのようなディベロッパーとしては大きなアドバンテージになります。

■AI×不動産はオーナー・賃借人ともに幸せにする

落合: 僕は不動産取引でブロックチェーンが当たり前のように使われる時代がそう遠くない将来、やってくると思っています。そうそう、今日も不動産関連の契約で、印鑑押したんです(笑)。「なんで未だに紙と印鑑?」って疑問ですよ。

小暮: 更新手続きも紙が主流だし、マンションに掲示されるお知らせ類も紙。僕たち不動産業界の人間としても、もっとスマート化していきたいと思っています。

落合: そもそも捺印した契約書なんて偽造しやすいですからね。信用情報や契約はブロックチェーンを活用するほうが安全性ははるかに高いのに。

小暮: 登記詐欺の話も珍しくないですしね……。ブロックチェーン上で、土地の登記記録等を管理できたり、所有権の移転等も実現できたりしたら、そういう被害はなくなるでしょう。

落合: AIの話に戻します。住人のデータを取得することで、前の住人がどういう風に住んでいたか、匿名的であっても明らかになるわけじゃないですか。さらにリアルタイムデータが信用情報になると言ってもいい。今より敷金や礼金の計算が楽になりませんか?

小暮: 今のところ、AIマンションは分譲なんです。ただ、来年は賃貸用に50室ほど作ろうかと。

落合: 不動産オーナーとしても、AIマンションを賃貸するほうが安心なんじゃないでしょうか。

小暮: アメリカでは賃貸に出されてるAIマンション(アパートメント)もあるんですよ。賃料は周辺相場より3〜5%高いのに、一度住んだ人はすごく快適だからと長期に渡って住み続ける。空室リスクも減りますよね。

落合: 自社の物件内で人が移動するときの料金プランも作れそうです。

小暮: デモグラフィックデータはかなり取得できますからね。

落合: 極端な話、1日に何回トイレに行ったかどうかも、データからわかる(笑)。

小暮: 蓄積したデータはすべて、物件を改善したり、次の物件を開発したりする際に活かしていこうと考えています。

落合: 個人データを取得されるのって、小暮さんはどう思いますか? 僕は別に嫌じゃないんです。病院での尿検査がいい例ですよ。あれほどパーソナルなデータを提出することはなかなかない。

小暮: スマホを持っている時点で、位置情報も判明してますしね(笑)。

落合: スマホひとつで検索ワードやアプリのログから、性別や年齢、住所などいろいろな情報がわかります。となると、家にはさらに多重的なデータが蓄積されていると考えられます。ここまで話してきたように、それらのデータを活かすことで、暮らしがますます便利になるのは間違いない。

■まとめ:第1回のblueprint「超AI時代は、希望の時代」

小暮: 僕は科学の力を信じてるんですよ。これまでも科学の発展で、産業や社会は大きく変わってきました。かつて電気が実用化され、産業や日常生活、あらゆるシーンで欠かせないものになったのと同じく、AIもなくてはならないものになり、あらゆる場面で使われるようになると思います。その流れは不可逆的で、人はより便利に、健康な生活を享受できるようになる。僕はそう信じてます。

落合: AI化は確実に進んでいきます。それにより、あらゆる業界や業種がコネクティッドな状態になり、投資もしやすくなると考えられます。超AI時代になっても暮らしが便利になるだけで、基本的には誰も困らないんですよ。僕自身は来る魔法の世紀に心踊るばかりです。魔法=中身がわからないことに最初は戸惑うかもしれませんが、それは別に慣れの問題ですから。

PEOPLE

小暮 学(こぐれ まなぶ)

Manabu Kogure

1976年生まれ。 
株式会社インヴァランス 代表取締役。 
2004年に株式会社インヴァランスを設立し、年商144億円の企業に育て上げ、現在に至る。 
「ものづくりと価値づくりを通じて不動産の新たな可能性を創造する」を理念に、自社物件に対し実験的試みを始動する。 IoT、AI等の未来のテクノロジーを搭載することが現状での新たな価値と見据え、米スタンフォード大学で人工知能における博士号を取得したアシュトシュ・サクセナ氏が設立したブレインオブシングス社と協業を開始した。 
現在はファウンダーとして不動産業界にエポックメイキングを起こすことを画策し、IoT、AI等の未来のテクノロジーを取り入れた物件開発に日々没頭している。

落合 陽一(おちあい よういち)

Youichi Ochiai

メディアアーティスト。
1987年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。筑波大学准教授・デジタルネイチャー推進戦略研究基盤基盤代表・JST CREST xDiversityプロジェクト研究代表・一般社団法人xDiversity代表理事。
2015年World Technology Award、2016年Prix Ars Electronica、EUよりSTARTS Prize受賞。Laval Virtual Awardを2017年まで4年連続5回受賞など、国内外で受賞多数。 個展として「Image and Matter (マレーシア・クアラルンプール,2016)」や「Imago et Materia (東京六本木,2017)」、「ジャパニーズテクニウム展 (東京紀尾井町,2017)」、「落合陽一、山紫水明∽事事無碍∽計算機自然」(東京・表参道,2018)」、「質量への憧憬(東京・品川、2019)」など。グループ展では「Ars Electronica Festival」「SIGGRAPH Art Gallery」,「県北芸術祭」や「Media Ambition Tokyo」などに参加。近著として「日本進化論(SBクリエイティブ)」、「デジタルネイチャー(PLANETS)」、写真集「質量への憧憬(amana)」

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