chapter07 吉崎航×落合陽一 いまも、未来でも。“武器”として持ちたいのは論理的思考力

対談者:アスラテック取締役
チーフロボットクリエイター 吉崎航

メディアアーティストの落合陽一が「超AI時代の暮らし方」を考える対談型カンファレンス「blueprint」。第7回目のゲストはロボット制御の専門家で、ロボット関連企業アスラテック取締役、チーフロボットクリエイターとして、同社で技術トップを務める吉崎航。多種多様なロボットが一般家庭に浸透した未来、人間が持っておきたい普遍的なスキルとは――。

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■ロボットも人間と同じくOSが必要

落合陽一(以下、落合): 僕と吉崎さんが出会ったのは、2009年の「未踏IT人材発掘・育成事業(※1)」でしたよね。今どんなことをしているのか、ちょっと自己紹介をお願いします。

※1 IT産業界の、特にソフトウェア関連分野の次世代を担う「スーパークリエータ」を発掘・育成することを目的に、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が実施。2009年度上期で採択し支援した41件中、特に優れた成果を収めた11名が「スーパークリエータ」に。吉崎は「人型ロボットのための演技指導ソフト」、落合は「『電気が見える』デバイスとソフトウェアの開発」として認定された。

吉崎航(以下、吉崎): 出会いから10年も経ってるんですね。ロボットのモーターやシリンダー、油圧などの駆動部を動かす技術を中心に、ロボットを遠隔から動かす技術や巨大なロボットを動かす技術などを、ソフトウェア(OS)として開発・提供しています。

落合: あの頃も「ロボットのOSを作っている」とおっしゃっていたのを覚えています。

吉崎: OSは厳密な定義の難しい言葉ですが、単に「ロボットのソフト」と言うと、アプリケーション側だと思われることがあるので、あえて意識的にOSと言っています。

落合: 実際、そういったOSのような機能がないとロボットは立ちもしないことがほとんどです。人の体には自律神経や交感神経などの活動するための基本構造やOSが組み込まれてるじゃないですか。ロボットにも同じようにOSが欠かせない、という認識は一般にはあまりない。そこを課題意識として持っていてすごいなと、当時から思っていました。吉崎さんの「V-Sido(ブシドー)(※2)」でロボットを操作する映像を2009年頃かな、ニコニコ動画で見てましたよ。

※2 吉崎が開発した独自のロボット制御ソフトウェア。汎用性が高いのが特徴で、大きさや形状、アクチュエータの種類を問わず幅広いロボットを、同じソフトウェアで動かすことが可能。

吉崎: うれしいですね。あの頃、私たちが簡単に入手できるロボットって、人型だとホビーロボットくらいしかなかったんですけど、その後、人型ロボット・Pepper(ペッパー)のようなコミュニケーションロボットが登場するなど、徐々に社会の中にロボットが広まってきましたね。ちなみにV-SidoはAIがあまり流行っていない時期というか、「ロボット×AIを実用化したい」といった話があまり現実的に見えない時期に作り始めました。ロボットとAIをつなげるには、AIが自分勝手なことをしてもロボットが壊れないよう、両者の間に“脊髄”的な仕組みが必要だよね、という考えから生まれたソフトウェアでもあります。

■役割を持ち、“置き場”が用意されたロボットは、家電として浸透する

落合: 僕がいま気になっているのが、家庭用ロボットです。家事ロボットを作る会社が、近年たくさん出てきていますが、倒産した会社も意外と多い。一周回った感はありますよね。

吉崎: そうですね。

落合: 家の中って課題が多いと思うんです。うちなんてaibo(アイボ)を投げつける、怪獣みたいな子どもがいますし(笑)。だけど、aiboって丈夫で壊れないし、抱き上げて変な力をかけると脱力もする。しっかりできてるなあと思いますよ。

吉崎: さすが一周以上回っているロボットだけのことはありますね(笑)。

落合: ルンバも生存戦略的に賢いですよね。今挙げたような用途が違うロボットたちは、10年先くらいにどう棲み分けて存在していると思いますか。

吉崎: 何かが一気に大きく変わる、というわけではないと思います。ただ、ルンバはすごいですよね。家庭用ロボットが何らかの“役割”に特化すると、◯◯ロボットという名称は使われなくなり、「優れた家電」として浸透することを示した好例です。食洗機もある意味でそのタイプかなと。新しい住まいを内見しに行くと、「食洗機置き場はここだな」とか思い浮かべませんか。ちゃんと、場所が用意されている。それって実はすごいことですよね。

落合: ですね。前に見にいった家で、戸棚の下が十数センチあいていて、「ここがルンバの居場所になるな」と思ったのを覚えています。

吉崎: 建築メーカーもそれをわかった上で設計しています。いま食洗機と洗濯機は置き場が用意されているわけですよ。逆に、役割がないものには置き場が用意されません。現状、ロボットは専用の置き場がない。置き場問題が解決され、自ら移動しても違和感がなくなれば、ロボットが受け入れられた、と言ってもいいんじゃないでしょうか。ルンバはそれを実現し始めてるわけですね。

落合: なるほど。考えてみれば、ラジカセとかホットプレートなどは、人が持ち運んで動かしている家電ですね。ルンバみたいにそれ自体が動く家電は他にない。aiboの話に戻るんですけど、新機能の「aiboのおまわりさん(※3)」を使うと、aiboが家の中をパトロールして、その様子をレポートしてくれるようになったじゃないですか。

※3 オーナーはスマホアプリ「My aibo」から、パトロールの状況を「レポート」として、いつでもどこでも確認できる。aiboは人と暮らす中で、カメラやセンサーを使って周りの人や自分のいる場所を認識し、障害物などは避けて歩くようになるなど、歩行可能なエリアを学習する仕組みを備えている。

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■日進月歩のテクノロジー時代に錆びないスキルとは

吉崎: あらかじめ巡回してほしいエリアと見守ってほしい人を指定しておくと、規定エリア内を自由に歩き回って、安否情報を報告してくれるんですよね。

落合: 外出先からも室内の様子を確認できるメリットがある一方で、個人情報の管理がとても難しい課題になると見ています。

吉崎: ほとんどのIPカメラ(ネットワークカメラ)が、セキュリティ上抱えている問題ですよね。ユーザーが設定を誤ったために、セキュリティ設定が有効化されず、映像を盗み見られるといったトラブルも起こりえます。ロボットが一般家庭に普及し、その数が増えるとより顕著になっていく問題ですよね。

落合: 導入するリスクはそれなりにありますよね。

吉崎: 人間の体でいえば、目から得られた情報は何重もの下処理が行われます。それだけでも十分な量があります。ただ、そのうち覚えておけるのは、脳に送られた情報へさらに処理を加えた情報だけです。具体的には色や人の顔、その人を知っているか否か、といった断片的なもので、ひとつの完璧な映像としては覚えていないのが一般的。ロボットが記録する情報もそうあるべき、という考え方になっていくかもしれません。

落合: 画像処理のチップ化はセンサーのIMU(Inertial Measeurement Unit/慣性計測装置(※4))化と同じように、自動運転分野を含め、進んでいくのかなと思います。何らかの目的に対して処理済みの情報を送るチップの汎用化は始まりつつありますよね。いまのaiboは公衆に向けて映像を送信するか否かに関係なく、映像を貯めるか記録するかしないと、歩行できないじゃないですか。だから室内に複数人がいたとして、「レポートされたくない人」はロボットとどうコミュニケーションをとればいいのか、って話も出てきます。

※4 加速度センサーや角速度センサーなど、単体の素子を組み合わせた装置のこと。単体では得られなかった情報を得ることが可能になる。たとえば運動体の角速度、加速度を検出し、それらの数値を基にチップで「その人が歩いた歩数」といった情報に処理した上で出力するものもある。

吉崎: 用途に合わせてリアルタイムに学習して、必要な情報を選択して送ってくれるカメラがあってもいいと思いますね。ロボットとのコミュニケーションでいえば、もう一つ思い出した話があります。子どもを持つお母さんから、「プログラミング言語はどれを学んでおくと、10〜20年後も使えますか」と聞かれたことがあって、そのとき「10~20年後には、論理的に話す能力、伝えたいことを端的に2〜3行程度でまとめる能力があれば、日本語だけで十分かもしれないですよ」とお伝えしました。それがプログラミングの本質だと思います。論理的思考力とわかりやすく伝える力というのは、プログラミングだけでなく、将来的にはロボットを動かす指令を伝えるのにも求められると思います。

落合: 自然言語をコンピュータがどう解釈するかという話では、近年、リーガルテック(法律×IT)分野が注目されています。膨大な法律文書をどうコード化するか研究している知人もいます。AI契約書レビューツールや契約書作成ツールなども出てきているのを見ると、システムに対してある程度具体的に命令を出せる能力は必須ですよね。

吉崎: 指令を出す際の抽象度を低くし、具体性を上げて……というのは間違いなく重要ですね。

落合: 一方で、ロジカルだけにとらわれるのも、違うのかなと思っています。というのも、まったくロジカルじゃないところから、イノベーションが生まれることもあるじゃないですか。人と計算機の垣根を超える未来、考えのパラダイムやフレームワークが変わるかもしれない。感覚や直感から生まれる発想も、変わらず大切にしたいと考えています。

PEOPLE

吉崎 航(よしざき わたる)

Wataru Yoshizaki

ロボット制御システム「V-Sido」開発者。
2009年、経産省所管のIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が実施した「未踏IT人材発掘・育成事業」に吉崎のプロジェクト「人型ロボットのための演技指導ソフト」が採択され「V-Sido」を発表。その成果により、特に優れた人材として経産省から「スーパークリエータ」に認定される。
その後、水道橋重工の「クラタス」など数多くのロボット制御に携わり、2013年にアスラテック立ち上げに参画。2014年に政府の有識者会議「ロボット革命実現会議」の委員として任命され、翌2015年からは「ロボット革命イニシアティブ協議会」の参与に選任される。また、一般社団法人ガンダムGLOBAL CHALLENGEのシステムディレクター、一般社団法人未踏の人材育成プログラム「AIフロンティアプログラム」のメンター等も務める。

落合 陽一(おちあい よういち)

Youichi Ochiai

メディアアーティスト。
1987年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。筑波大学准教授・デジタルネイチャー推進戦略研究基盤基盤代表・JST CREST xDiversityプロジェクト研究代表・一般社団法人xDiversity代表理事。
2015年World Technology Award、2016年Prix Ars Electronica、EUよりSTARTS Prize受賞。Laval Virtual Awardを2017年まで4年連続5回受賞など、国内外で受賞多数。 個展として「Image and Matter (マレーシア・クアラルンプール,2016)」や「Imago et Materia (東京六本木,2017)」、「ジャパニーズテクニウム展 (東京紀尾井町,2017)」、「落合陽一、山紫水明∽事事無碍∽計算機自然」(東京・表参道,2018)」、「質量への憧憬(東京・品川、2019)」など。グループ展では「Ars Electronica Festival」「SIGGRAPH Art Gallery」,「県北芸術祭」や「Media Ambition Tokyo」などに参加。近著として「日本進化論(SBクリエイティブ)」、「デジタルネイチャー(PLANETS)」、写真集「質量への憧憬(amana)」

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