chapter08 高柳寛樹×落合陽一 好きな場所、好きな時間に働くのが当たり前になる未来

対談者:情報社会学者/作曲家/実業家/
立教大学特任准教授 高柳寛樹

メディアアーティストの落合陽一が「超AI時代の暮らし方」を考える対談型カンファレンス「blueprint」。

第8回目のゲストは大学時代にTechベンチャーを創業し、実業家として活躍するほか、大学准教授、作曲家など、多面的な顔を持つ高柳寛樹氏。昨今、叫ばれるようになった働き方改革。高柳はそれを10年以上も先取りして、「オフィスを持たない」「各自が好きな場所で働く」という、実験的なチャレンジをしてきた

そんな高柳と落合、ふたりに共通しているのは、多様な仕事を複数持ち、すべての仕事にフルコミットしているところだ。この先、ふたりのようにジャンルの異なる、いくつもの仕事を持ちながら、生きていく人は多く現れるだろう。そんな時代の心地よい働き方とは――。

■約10年前からオフィスを持たない働き方を実践

落合陽一(以下、落合): さっき伺ってびっくりしたんですけど、高柳さんはいま長野県白馬村にお住まいなんですよね。

高柳寛樹(以下、高柳): はい、白馬村民なんですよ。住民票も移しています。

落合: 長野に拠点を移したのは何がきっかけだったんですか。

高柳: 僕が創業したソフトウェア開発会社(株式会社ウェブインパクト)で、社員が50人近くになったあたりで、働きづらいなと感じたんです。飯田橋にあったオフィスをなくして、メンバーそれぞれが好きな場所で働く体制にしました。10年くらい前の話です。僕自身も働く場所が自由になったので、スキーが大好きなこともあって、白馬村に住むようになったんです。

落合: いまだとオフィスを持たない選択をするベンチャー企業はあります。でも、10年以上も前だとかなり先進的。当時、周りからはどういう反応をされましたか。

高柳: ほとんど理解されなかったですし、辞めた社員もいました。ただ、やるしかなかった。中小ベンチャーにとってエンジニア採用が厳しいなか、彼らが働きやすいと感じる環境を用意しないとマズい、といった経営課題解決に向けて、踏み切ったことだったんです。

落合: とはいえ、オフィスを持たない状態を選択できる会社は、現状多くはないです。一番のボトルネックは「常識」なんでしょうか。

高柳: そうでしょうね。労働基準監督署から「どうして御社は事業所がないんですか」と聞かれて、オフィスを持たない意図や目指していることをいくら説明しても理解してもらえない。法律がアジャストしていない、というのが大きいですよね。

落合: 1960〜1970年代にできた法律が悪さをしているなあと、僕はよく思うんです。人口上昇タイミングで生まれた法律を、減少タイミングのいまでも、そのまま適用するのはどうなのと思います。本当は法律を逆向きに変えないといけないとき。国もそれに気付いているとは思うんですけど。

高柳: 大手上場企業が動くと変わっていくんでしょうけど、労働者を場所と時間で管理する法律がベースになっているいま、彼らが改革に踏み出せないのもわかるんです。法律が整っていないいま変わろうとすると、コンプライアンス違反になってしまうから。

落合: 個人的にはソフトウェア開発って、会社に行っていつも同じ場所でやるよりも、自分の好きな場所や移動中にやるほうが集中できると感じます。

高柳: 僕も新幹線の中では仕事がはかどります。白馬の山上にあるカフェも、仕事をするのにとてもいい環境です。

落合: 5G通信が実現すると、さらに仕事しやすくなると思いますか。

高柳: その前に3Gでも4Gでもいいので、パケット通信できる環境が整ってほしいです。いつ、どんなところでもテレカンできると、時間を有益に使えますからね。

■効率化を徹底して初めて、複数の仕事にコミットできる

落合: 僕も会議の多くはテレカンです。10年以上前だと、テレカンを受け入れない人もいたんじゃないですか。

高柳: 対面での会議を要請されることもありました。でも、近年はテレカンをOKしてくれるお客さんも増えましたし、むしろテレカンにしてほしいと言われるケースも多いです。昔ネット会議をしようとすると、「音声だけだと伝わらない」という理由から、顔を映したがる人が多かったんですね。でも、音声だけで会議をやり続けていると、顔を写す必要性は感じなくなる。いまはほとんど音声だけで会議しています。

落合: ラジオをやっていると、顔って映さなくてもいいなと思いますよね。音声だけで楽しめます。僕のラボでは週3でゼミがあって、うち1回は月曜7時にテレカンを起動するんです。

高柳: 早いですね(笑)。

落合: 「起きてるかー」と呼びかけて、その週にやることを決めるんです。慣れてくると、音声だけで不都合なくやりとりできるようになりました。

高柳: 人間の慣れというか、アジャスト力はすごいなあと思いますよね。

落合: これは笑い話なんですけど、集団で会議をしていると、「コイツ、妙に声がこもってるな」と感じるときがあるんです。聞くと入浴中だったり、トイレに入っていたり(笑)。各自がいろいろな場所で、いろいろな状況で会議に参加することにも慣れました。

高柳: ムダを作らないというか、“死に時間”を会議に充てられると喜ばれますよね。僕のところもテレカンをベースにしたら、介護や育児で離職していた人たちが戻ってきてくれたんです。たとえば、ある女性は子どもの送り迎えの間に、車を停めてテレカンしていると話していました。

落合: そうやって効率化しないと、いろいろな仕事をやっていけないですよね。メディアアート、大学教員、会社経営、研究者……仕事を複数できているのは、時間を節約できているからだと思います。会議はテレカンが多いですし、ほとんどのコミュニケーションは、メールよりも素早くやりとりできるチャット。

高柳: 僕も4つくらいの仕事にフルコミットしているので、効率良く進めていかないと回らない。

落合: 気になっていたんですけど、作曲家としてアーティスト活動をしているときと、大学教員や経営など、他の仕事をしているときとで、頭の使い方はがらりと変わりますか。

高柳: それが一緒なんですよ。教員も経営もライブでピアノを弾くときも、趣味のスキーをしているときも、全部同じ感覚で。

落合: それすごいな。

高柳: 逆に落合さんは頭の使い方がそれぞれ変わるんですか。

落合: 変わりますね。メディアアートと研究、経営と教育がそれぞれ頭の使い方は似ています。前者は文脈主義的な点、後者は投資とリターンの観点で考える点で、共通しているからだと思います。

高柳: 面白いですね。僕は自分の仕事すべてに対し、共通して持っている感覚があります。「ずれていく感じ」と「経験を吐き出す」ことです。

■ストレス摂取を限りなく減らした働き方

落合: 経験を吐き出す、と聞いて思ったことがあります。僕は同じことを2回以上言うのが嫌いなんですよ。大学教員としては致命的なんですけど(笑)。

高柳: 僕も同じことをやり続けるのはストレスに感じます。クライアントから次もまったく同じことをやってくれと頼まれるとつらい(笑)。自分は同じことの繰り返しじゃなくて、新しい挑戦をしたいんだろうなと思います。

落合: でも、教員をやっていると、毎年3月が来る度に降り出しに戻る感じがありませんか。

高柳: あの無力感は独特ですよね。

落合: 僕の人生には、同じことを繰り返す時間なんてないのに、といつも考えてるんですよ。だから「去年と同じこと言ってるかも」と気付くとストレス。同じことをやり続けるのがしんどいタイプです。

高柳: わかります。

落合: 授業を持つようになって3年目から、パワポ資料の投影をやめて、デジタルのスケッチブックにリアルタイムで板書するやり方に変えたんです。

高柳: 板書だと即興が効きますよね。

落合: 最新の情報を書けるメリットは大きいです。前年に使った資料を投影しながら「ここ、直せばよかった……」と後悔しながら講義するのは、大きなストレスになります。働き方の本質はストレスとの向き合い方だと思うんですが、働く上でストレスをどうコントロールしていますか。

高柳: 僕にとってストレスはアンコントローラブルなもの。商売は時期によってすごくストレスになるし、倒れちゃうところまで平気で走ってしまうんです。ただ、同じことをやり続けて発生するストレスではなく、簡単にはできないことに挑戦して生まれるストレスは悪くないと思っています。

落合: 先日、学会へ行ってたんですね。そこで「僕、もう10年以上もこの国際会議に出続けているのか」とハッとしたんです。ずいぶん同じことを繰り返しているなと、ちょっと反省しました。

高柳: 落合さんでも、そんなことを思うんですね。

落合: 国際会議で論文が通ると周りから称賛されます。でも、人から「すごいね」と言われるようなことを、ずっと同じようにやり続けた先に果たして何があるのか、というのは考えてしまいます。

高柳: 人から褒められることって、経験を積んでいくうちに、案外簡単にできるじゃないですか。その点で、慣れというのは怖いと思います。次第に誰も怒ってくれなくなりますしね。怒ってくれる人は大事にしないと。

落合: わかるような気がします(笑)。今日はありがとうございました。

PEOPLE

高柳 寛樹(たかやなぎ ひろき)

hiroki takayanagi

情報社会学者、実業家、作曲家。株式会社ウェブインパクト/取締役ファウンダー、立教大学大学院特任准教授など。
大学在学中にソフトウェア開発会社を創業。大学院修了後、実業と並行して大学教員として教鞭をとる。IT前提経営®︎の提唱者として自ら経営する会社でオフィスを捨てる。以降本人は長野県白馬村に住みSuperMobility™️の実践をしている。
非スノー産業従事者にして年間50日以上のスキー滑走日数をこなす。近著に『まったく新しい働き方の実践〜「IT前提経営」による「地方創生」〜』(ハーベスト社)他多数。

落合 陽一(おちあい よういち)

Youichi Ochiai

メディアアーティスト。
1987年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。筑波大学准教授・デジタルネイチャー推進戦略研究基盤基盤代表・JST CREST xDiversityプロジェクト研究代表・一般社団法人xDiversity代表理事。
2015年World Technology Award、2016年Prix Ars Electronica、EUよりSTARTS Prize受賞。Laval Virtual Awardを2017年まで4年連続5回受賞など、国内外で受賞多数。 個展として「Image and Matter (マレーシア・クアラルンプール,2016)」や「Imago et Materia (東京六本木,2017)」、「ジャパニーズテクニウム展 (東京紀尾井町,2017)」、「落合陽一、山紫水明∽事事無碍∽計算機自然」(東京・表参道,2018)」、「質量への憧憬(東京・品川、2019)」など。グループ展では「Ars Electronica Festival」「SIGGRAPH Art Gallery」,「県北芸術祭」や「Media Ambition Tokyo」などに参加。近著として「日本進化論(SBクリエイティブ)」、「デジタルネイチャー(PLANETS)」、写真集「質量への憧憬(amana)」

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