chapter09 須藤憲司×落合陽一 いくつもの分野を行き来して働く未来を前に、今私たちにできること

対談者:株式会社Kaizen Platform
代表取締役 須藤憲司

メディアアーティストの落合陽一が「超AI時代の暮らし方」を考える対談型カンファレンス「blueprint」。第9回目のゲストはリクルート、リクルートマーケティングパートナーズを経て独立し、米国でKaizen Platform, Inc.を創業した須藤憲司氏。2017年より、WebサービスやモバイルのUIを改善する「Kaizen Platform」、動画広告改善の「Kaizen Ad」などの事業を展開している。

そんな須藤と落合、ふたりに共通しているのは、デジタルトランスフォーメーション(Digital transformation:DX)時代の生き方や働き方について、さまざまな場所で語っている点だ。経済産業省は2018年12月に発表した「DX推進ガイドライン」でDXをこう定義している。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

企業がAIやIoT、5Gなどの最先端デジタルテクノロジーを活用することで、新たな価値を創造し、私たちの暮らしやビジネスをより良く変えていくDX時代の到来。その流れに伴い、一人ひとりの生き方や働き方も急速に変わりゆく中で、私たちはどう在るべきなのか――。

■DX推進、課題は人材

落合陽一(以下、落合): 最後にお会いしたのは、2年前くらいですよね。その間、どんな変化がありましたか。

須藤憲司(以下、須藤): 当時手掛けていた仕事の大半は、Kaizen Platformでのグロースハックでしたが、最近はDXが半分近くの割合を占めています。大企業が揃って「DXをしなければ」と言い始めましたよね。

落合: DX周りでは人手が足りていない印象を受けます。僕もDXの仕事をさせていただくことが多いので痛感しています。メディアアーティストに大学教員、経営者、研究者……複数の仕事をしていますが、DXは自分が経営する会社の事業として行っています。DXで解決したいものはオーダーメイドのものも多く、エンジニアとプロトタイプを作ってPDCAを回して、現場とすり合わせながらロードマップを引いていきますよね。“肌感”がないと進めるのが難しい分野だと感じています。

須藤: 現場でDXを進めようとしても、その前段階として「掃除」や「整理整頓」に時間を要しませんか。お掃除ロボットを買ったはいいけど、その前に部屋の片づけが必要だな、みたいな感覚に近い。

落合: その間に課題発見することも多いですよね。

須藤: はい。組織内の圧力や人の感情の機微を目の当たりにすることも多々あります。DXを進めようとすると、情シスに営業、デジタル、経営企画……とたくさんの部門・部署が関わってきて、登場人物が増えます。皆で協力してやらないと上手くいかないのに、「総論には賛成、でも各論には反対」みたいな摩擦が起きやすい。

落合: 財源は新規事業部で、現場で手を動かすのはIT部門で、のような構図になると、衝突が生まれることも珍しくなくて。

須藤: 「DXをやってるなんてすごい」とか言われますが、実際は会議のファシリテーターをしたり、部門間でぶつかり合うのを止めたり(笑)、コストの捻出を交渉したり……今はそういう立ち回りが多いです。ある意味、戦略を立てる以上に大変な役割だと思います。少し話が戻りますが、プロトタイプを作るときどんなことを大事にしていますか。

落合: 状況によりさまざまですが、例えばDXを生業とする人はデジタル制御や学習について詳しくても「対象物」については門外漢なことが多いんです。なので、対象物の勉強から入ることにしていますね。それと一番大事なのはDXのKPIを明確に設定することかなと思っています。DXをすることでコストが削減されるのか、付加価値が高まるのか、新規ビジネスが生まれるのか、労働時間が減るのかなど、それらを数字で出すことも必要なことでしょう。

須藤: プロセスを通じてそのあたりを明らかにしていくんですね。大企業の中にはプロトタイプやモックの制作は計画立案後でいいと考えるところも多いです。そこはどう突破していますか。

落合: 世のニーズに言及しつつ、ソフトウェアなりハードウェアなり、触れる状態にしたプロトタイプを会議で提示しています。「こんなのあったらいいね」という話を受けてから現物を作ると時間がかかるので、大学で研究する際に作ったありものをベースに対話をするんです。

■AI活用には「適切な用途発見」が欠かせない

須藤: すごく参考になります。もうひとつ感じているのは、顧客側にテクノロジーのリテラシーを持つ人材がいないと大変だということ。実際に手を動かす人がシステムの設計・実装含めて理解していないと、メンテナンスだけでなく、他システムとの接続や取り外しがしづらいものを作ることになってしまう。その流れは止めなければと感じます。

落合: パワーポイントにまとめた仕様を守ることが、最終到達点になってしまうと本末転倒ですよね。

須藤: 膨大な金額を投資したのに、動かないシステムができてしまった、なんて絶望的じゃないですか。前に経済産業省が「レガシーシステム」化した既存システムが、DX改革の足かせになっている、という資料を発表していました。技術面で老朽化したシステムに移管するよりも、それを代替するような仕組みをプロトタイプとして作ったほうがいいと思うんですよね。あれをウォーターフォール型開発でやるとなると、なんていうか、ピラミッドの横にピラミッド建てちゃうみたいなものじゃないですか(笑)。開発に着手するまでどうしても時間がかかってしまいますし。

落合: ボトムアップで影響力を増していくイケてるシステムやサービスって、たいてい外資が作ったものなんですよね。Googleに類するようなサービスを日本で作って、Googleに勝つのはかなり難しいじゃないですか。世界一にはなれないと理解した上で、資本を入れて5〜10年かけて国内産のシステムやサービスを作るのも、今の日本の仕組みでは厳しいはずです。意識改革が必要ですよね。中国政府が全土にグレート・ファイアウォールを敷いて、他国のシステムやサービスを市場から締め出したときは「賢いな」と思いました。LINEとヤフーの統合などはここに肩を並べる感覚なのかなと思います。

須藤: 複雑な仕組みを作る以前に、シングルアプリケーションを構成するプロトコルひとつに統一した方がいいと思います。皆が同じプロトコルでコミュニケーションするように整備すると、世界はガラッと変わるはずです。僕、Facebookが開発している「Libra(リブラ/Facebook独自の仮想通貨)」の報道を追っていて思うことがあって。「既存の通貨をLibraで置き換えます」と言うと抵抗されますよね。「お金の形が変わる」と言ったらダメなんですよ。

落合: そうではなく、「全然違うものです」と言わないといけない。

須藤: 真っ向から「Libraは新しい通貨です」と言い始めると難しい。「お金にもなるけど、別の役割も果たします」みたいに、人畜無害さを強調するスタンスで伝えないと、普及していくのは難しいでしょう。組織の中で「総論賛成、各論反対」が起きやすいDXを進めるときにも、そのスタンスは参考になると思います。いろいろなプロトタイプを作ってまずは試してみて、良いものがあったら使う、という在り方が理想的だなぁと。

落合: 非営利かつオープンソースのシステムを作ることが、DX推進のカギになると思います。現金換算で考えすぎると良くないかもしれません。ほとんどの「ICO(Initial Coin Offering/新規仮想通貨公開)」が失敗している理由もそこにあると思います。

須藤: 営利性のニオイを消した、「これ、何の意味があるの?」と言われるようなものの方が広がっていくんですよね。

落合: TwitterやFacebookがわかりやすい事例じゃないですか。現にTwitterなんて2008年頃、「140文字以内でつぶやくって何の意味があるの?」って言われていたでしょう。

須藤: 10年くらい前はそうでしたね。

落合: AIで生成した画像を改変してクールなものを作ったぜ、というような海外サービスがあるんです。それを見て、何の意味があるのかはわからないけれど、なぜかクリックしてしまう。画像を作り続けることそれ自体は現状、ほぼ無価値です。でも、そこに人が集う。意味がわかるとむしろ面白くないと思うんですよね。

須藤: その話を聞いて思い出したのは、「Generated Photos」のような、AIが架空の人物の写真を生成するサイトです。レンポジ(ストックフォト)として利用できるなあと。僕は技術の進化において、いかに用途を発見するかがとても重要だと考えています。AIは用途を見つけたら想像以上に力を発揮します。

落合: タスクを決めると強い「タスク志向型」が今のAI応用が利いてくる場所だと思います。しかし、そのタスク発見には当事者の感性が必要です。あと、対象に対する集中力は当然ですが、部外者ゆえに対象から聞き出せたり、切り出せたりという能力も欠かせません。

■専門領域をいくつも持つのが当たり前に

須藤: 落合さんがそういったスキルをお持ちなのは、いろいろなバックグラウンドの仕事をされているからだと想像します。他の人がそこに近づくには、何が必要だと思いますか。

落合: 「頭の使い方」が数パターンできるよう、練習することでしょうか。例えば、僕はアーティストとして仕事をしているとき、アーティストの頭で物事を考えています。でも、それだけではなくて「アーティストの僕はそう考えるけど、研究者の僕ならこう考えるな……」と、スイッチを切り替えるんです。

須藤: それぞれの分野に“型”があって「今回はこのフレームでいこう」みたいな感覚でしょうか。

落合: 型のひとつ上流にある型、と言っていいかなと思います。僕の領域であるアートと研究、教育、ビジネスは、全部微妙にズレがあるんですよね。ゴール設定するときのKPIが違うと言ってもいいと思います。完全には重ならない専門分野をいくつか持っておくのは有利ですよ。分野ごとの頭の使い方ができるようになるので。そうなると課題の探し方が変わってきます。

須藤: 落合さんは複数の専門分野を同時並行で進めてこられてるじゃないですか。これからはそういうマルチなキャリアが普通になっていくのでしょうか。

落合: 恐らくそうでしょうね。ただ、ゲームのルールが違うことを何個もしていると、都度、頭を切り替えないといけないので、自分がちぐはぐになる感覚も時にありますよ。僕がアートでAIを使った作品とかを見たときに、「アートとしては凡庸だけど、論文はエキサイティングだったな」と言うこともあります。これって、アートだけをしている人にはわからない感覚だと思います。

須藤: 面白い! そうやって言語化して人に伝える上で何を大事にしていますか。

落合: 良さを語ることです。「アートとしては凡庸だけど、論文的には良いと感じた理由は……」と具体的に語ります。

須藤: なるほど。そうやってマルチな専門領域を組み解いていかないと、イノベーションは起こせないんでしょうね。

落合: 学生には「専門領域がふたつほどあると、ブレイクスルーするチャンスがある」とよく話しています。領域がひとつだけだと、自分の仕事の付加価値について、なかなか考えが及ばないし、言語化もしづらいんです。例えば、研究費を年間1000万円もらっている研究者に、「この1000万円の付加価値は、書籍を10万部売るのと同じくらいだな、などと考えたことはある?」と聞いても、考えたことはないって言うんです。普段からいくつもの指標で物事を見ていないと、この付加価値は他の物差しで考えるとどれくらいか、そしてどこから生まれたのか、なんて議論はできないですよね。

須藤: 僕はビジネス寄りの人間ですけど共感できます。最近感じるのは、「自分が慣れ親しんだ領域を超えて、別の領域にまたがるのが怖い」「そのことを深く考え始めると辛い」という人が少なくないこと。逆に、探究心や知的好奇心が旺盛で、領域を越境して挑戦する人たちと比べると、50〜60代くらいになったときに、びっくりするくらい差が開いていると思うんです。おまけに人生100年時代と言われる今、昔よりも2倍近く生きるとなると、早いうちから高い意識を持って行動しておかないとマズいという感覚がありますよ。その危機感すら感じていない人もいると思いますが。

落合: その人たちには「周りを見ない感覚」が適度にあるんじゃないでしょうか。若いうちは無知なぶん、マルチな領域で挑戦しやすい。周りの目も気にならないですしね。でも、30歳を超えてビギナーになるのって、かなり勇気がいることです。「30代以降、新しい領域にチャレンジするのには相当の勇気がいるよね」と思う人々を生み出してしまった社会システムもおかしいんですけど。信頼と社会的地位の感覚が固定されている悲しい現実がありますよね。本当は何歳になろうと、無責任なことを言っていい。言い換えると、チャレンジするのに年齢なんて関係ないんです。

■自分の頭で考えて、手を動かした時間は裏切らない

須藤: 同感です。僕はアメリカで起業しました。「どうしてアメリカで?」と聞かれると「面白そうだから」と答えていました。ただ、向こうで会社を立ち上げたことで、結果的に苦労するんですけど(笑)、落合さんが言う「周りを見ない感覚」っていうのは、あのときの感覚だなとわかります。

落合: タイムマシンで過去に戻れたとすると、どんな選択をしていたと思いますか。

須藤: アメリカでは起業しなかったでしょうね、大変すぎたので。ただ、一歩踏み出してみる感覚は持っておきたいと思います。今の日本で新たに一歩踏み出す、というのが気軽にできるかというと、どうでしょう。日本の競争力を国家レベルで高めるには、その一歩が重すぎるようにも感じます。今は白黒はっきりさせて、グレーは許さないみたいな感じもある。

落合: 炎上するコンテンツみたいな。

須藤: 今の「空気」を変えないと。落合さんはいろいろな仕事をされていて、各領域で同調圧力を感じることはないですか。

落合: 感じますよ。でも、それぞれの分野でユニットエコノミクスが成立していれば大丈夫なのかなと捉えています。自分はアーティストとしても教育者としてもサイエンティストとしても生きていける、と思っているので。むしろ、人からけなされ始めるところまでいかないと、その領域を跨いだとは言えない。けなされるようになるのが分水嶺であり、損益分岐点だと思います。けなしてくる人を見つけたときは「よし、来た!」ってなりました(笑)。重要なのはやめないことです。

須藤: すごく深いですね。

落合: 父親が言ってたんです。他人から嫌われるくらいにならないと、食ってはいけないぞって。それまでは少数のファンしかいない状態ですから。

須藤: 確かに。ファンがいるからアンチが存在するわけで。

落合: 極端な話、9割アンチ、1割ファンだったとすると、その1割は自分のことを圧倒的に応援してくれる人たちなんですよね。ビジネスとして成立します。

須藤: そう教えてくれたお父さまがすごいなと思いました。

落合: 僕は分水嶺を超えるまでの事例を持っています。ひとつ言いたいのは、自分の手を動かしてきた時間の積み重ねは、自分を裏切らないということ。アーティストとして活動するとき、僕は写真も動画もプログラムもだいたい全部自分で書きます。他人任せにしないんですね。研究はチームだし、経営は継続性や属人化から切り離すことが求められるので、それとはやり方が違いますが。ただ、自分の手を動かすことは大事だと考えていて、論文や他の文章を書くことは重要視しています。

須藤: ですよね。僕も若い人によく言うのが、戦略を書くことだけをやっているとダメだと。完璧な戦略を書ける人はたくさんいるけど、完璧に実行できる人はほとんどいないぞ、と。だからいろいろなことをやって、先ほど話したような“用途”を見つけたり、想像する力を身につけたりしよう、とも伝えています。

落合: 今日はたくさんお話しできてうれしかったです。ありがとうございました!

PEOPLE

須藤 憲司

Kenji Sudo

2003年に早稲田大学を卒業後、リクルートに入社。同社のマーケティング部門、新規事業開発部門を経て、リクルートマーケティングパートナーズ執行役員として活躍。その後、2013年にKaizen Platformを米国で創業。現在は日米2拠点で事業を展開。WebサービスやモバイルのUI改善をする「Kaizen Platform」、動画広告改善の「Kaizen Ad」、世界40ヵ国10,000人以上のネット専門人材ネットワークからクラウド上で企業のデジタルマーケティングチームを提供する「Kaizen team for X」を提供。

落合 陽一

Youichi Ochiai

メディアアーティスト。
1987年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。筑波大学准教授・デジタルネイチャー推進戦略研究基盤基盤代表・JST CREST xDiversityプロジェクト研究代表・一般社団法人xDiversity代表理事。
2015年World Technology Award、2016年Prix Ars Electronica、EUよりSTARTS Prize受賞。Laval Virtual Awardを2017年まで4年連続5回受賞など、国内外で受賞多数。 個展として「Image and Matter (マレーシア・クアラルンプール,2016)」や「Imago et Materia (東京六本木,2017)」、「ジャパニーズテクニウム展 (東京紀尾井町,2017)」、「落合陽一、山紫水明∽事事無碍∽計算機自然」(東京・表参道,2018)」、「質量への憧憬(東京・品川、2019)」など。グループ展では「Ars Electronica Festival」「SIGGRAPH Art Gallery」,「県北芸術祭」や「Media Ambition Tokyo」などに参加。近著として「日本進化論(SBクリエイティブ)」、「デジタルネイチャー(PLANETS)」、写真集「質量への憧憬(amana)」。

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