chapter10 岡崎裕子×落合陽一 私たちに今も未来も必要なのはクリエーションの時間

対談者:陶芸家 岡崎 裕子

メディアアーティストの落合陽一が「超AI時代の暮らし方」を考える対談型カンファレンス「blueprint」。

第10回目のゲストは陶芸家の岡崎裕子氏。キャリアのスタートはアパレルブランドのイッセイ ミヤケだった。同社広報部で3年勤めた後、23歳のときに茨城県笠間市の陶芸家・森田榮一氏に弟子入りし、約4年半の修行を経て2007年に独立を果たす。神奈川県横須賀市を拠点に、食卓で日常使いできて、生活に取り入れることで気持ちが切り替わる器を作っている。

そんな岡崎と落合、ふたりに共通しているのは、陶芸と写真という、ふたり曰く「似ている」要素を持ったものづくりをしている点だろう。現代の食卓や食に関するコミュニケーション、それを支える名脇役としての器。ふたりの話から、20年後のそれらがどう変容しているのか、想像してみるのも面白いかもしれない。

■“日用品”としての器をつくりたい

落合陽一(以下、落合): この対談企画で初となる女性ゲストです。しかも、珍しく「はじめまして」の方。岡崎さんはどうして陶芸家になったんですか。

岡崎裕子(以下、岡崎): 幼い頃からものづくりが大好きで、社会人になってからはイッセイ ミヤケでプレスとして働いていたんです。最後の1年、イッセイさんのそばで仕事をするうちに、私もやっぱりものづくりがしたい、という気持ちを抑えきれなくなってしまって。

落合: そこで洋服づくりには進まなかったんですね。

岡崎: ファッションという資本の大きな世界で挑戦するのは私には合わないな、と思ったので。デザイナーにパタンナー、工場の方……多くの人の手を介さないと洋服づくりはできません。それよりも私は自分ひとりで全部やりたい、という考えなんですね。

落合: それもあって、手仕事の世界に惹かれたのですか。

岡崎: はい。特に器って洋服と同じで、日常に入り込んだものですよね。憧れからファッション畑に入ったこともあり、洋服のように普段使いできるものでありながら、生活のエッセンスにもなり、気持ちをスイッチングできるものといえば……器だ! と思い立って。

落合: 僕の友達にも何人か陶芸家がいます。ぱっと思いつく人だとひとりは昔メディアアートをやっていたのですが、23歳くらいで陶芸の道に入りましたね。もうひとりは元から伝統工芸の道へ進んでいます。岡崎さんはどういう陶芸を目指しているんですか。

岡崎: 袖を通すとテンションが上がる服のように、使うと温かい気持ちになるとか、食卓の雰囲気が良くなるとか、現代の食卓に合う器づくりを目標に、これまで活動してきました。

落合: ちなみに、数ある素材の中でもどうして「土」を選んだのでしょう。

岡崎: 直感です。生活に入り込む素材はたくさんありますが、自分にとって一番扱いやすいのが粘土でした。

落合: わかります。僕は撮った写真を印刷するのにプラチナプリント(※)という古典的な技法を使っているんです。感光液を塗って現像液を付けて……とこの技法に取り組むうちに、プラチナプリントのプロセスって焼き物っぽいなと感じたんです。

※1870年代のイギリスで生まれた、安定性の高い金属のプラチナを用いて写真を焼き付ける技法。黒は漆黒に、白は白に、黒と白の間に無限の階調を表現でき、精緻な描写力を持つことが支持されている。数百年以上に渡り美しい状態が保たれることも実証されている。

岡崎: どういうところがですか。

落合: 仕上がりがどうなるかわからないところです。他の現代的な手法だと、美しい像が鮮明に出るというのが最終到達点だと思います。でも、プラチナプリントはそうじゃない。どういう図版を、どういう支持体に、どう焼けるか、それこそが重要なんです。支持体は和紙でも洋画紙でも木の板でもいい。あと、ある種アンコントローラブルな部分も面白いんです。

岡崎: へえ、手加減で仕上がりが変わるんですか。

落合: 例えば、プラチナプリントには紫外線を当てるプロセスがあります。当てる時間が5秒違うだけで仕上がりはまったく違うものになります。紙の湿度にかなり左右されるので、紙が吸う水分量で焼き具合は変わってくるんです。「この季節、この湿度だと水分コントロールはこれくらいがいいかな……」と自分の頭で考える必要があります。現像液の温度によっても色が変わってしまうので。

岡崎: 陶芸とすごく似てますね。

落合: 感覚的な要素も必要になります。

岡崎: メディアアーティストとして、大きな作品と向き合っている落合さんが、そういった非常に細かいものづくりもされていたとは。驚きです。

落合: ただ、つくるスピードは陶芸よりも早いですよ。1枚の写真作品をつくるのに5〜6枚焼かないといけないですが、それでも1枚4分で焼けるので。

岡崎: 陶芸は土が乾くのに数日かかりますからね。

■皆クリエーションの時間を持ってほしい

落合: どういうスケジュールで仕事をされているんですか。

岡崎: まず、ろくろで形をつくりますよね。その時点ではグニャグニャな状態なので、1日置きます。次の日ひっくり返して削って、さらに次の日に装飾して、1週間くらい乾かして、素焼きして窯出しして、みたいなスケジュールです。ざっくり言うと、そんな感じ。

落合: 月にいくつくらい作品をつくるんですか。

岡崎: 100〜120個くらいですね。個展開催前だったり、大量の注文を受けていたりすれば、もっと多産になることもありますけど。

落合: 1日にどれくらいの時間を仕事に充てていますか。

岡崎: 朝9〜13時頃までです。その前後は子どもの送り迎えがあるので。

落合: 子どもが帰ってきたらお母さんに切り替わるわけですよね。なんてバランスの良い生活なんだろう。仕事を9〜13時くらいで終わらせて、午後は家族と過ごす——そのライフスタイル、世の7割くらいの人の憧れだと思いますよ(笑)。

岡崎: 自信はないですけど(笑)。

落合: 僕なんて『NEWS ZERO』の現場から帰宅すると深夜1時頃で、3時までにプラチナプリント終わらせよう、そうすれば朝7時には仕上がっているぞ、みたいな生活ですから(笑)。とても理想的に感じます。

岡崎: 子どもがふたりいるので、その子たちとの時間を過ごし始める昼下がりが、クリエーションタイムと子育てタイムの切り替えタイミングになるんですよね。

落合: 最近感じているのが、現代人はクリエーションをしなさすぎるということ。もっとものづくりをした方がいい。僕はクリエーションをしないと、頭から下を使っていない気がしちゃうんです。頭も体も両方使うのが今の時代的にもいいと思います。料理くらいなら気軽にできそうですけど。

岡崎: 私はクリエーションに興味のある人はいるのかな、と感じますよ。

落合: 子どもに紙を渡すと、それぞれ自由に楽しむじゃないですか。だから幼いうちはクリエーションに興味があると思うんです。でも、ワークショップなどで子どもと触れ合うと、小学校高学年以降にやめてしまう子が多いなと気づきます。個人的には、学校教育に美術があるからじゃないかな、と思いますね。

岡崎: 日本人は「正解」を求めがちなところがあります。ものづくりでも「こうあるべき」という部分はあるのかなあと。

落合: 作品一つひとつに「味」がありますよね。それって授業で教わる「上手な作品」「下手な作品」とはズレがあります。大人になると「ヘタウマ」なる世界観があるって知るんですけど。現代人はどういうクリエーションをするのが良いんでしょうね。

岡崎: うーん、庭いじりはいいと思います。

落合: 庭がある人は家庭菜園とかいいかもですね。でも、なんで土いじりがいいんだろう。

岡崎: スッキリする感覚がありませんか?

落合: (一瞬考え込んで)……僕、土いじらなさそうじゃないですか(笑)。

岡崎: あはは。料理はどうですか。

落合: 提案しておいてあれなんですけど、料理はあまりしないというか、つくるとしてもラーメンくらいです。性格的に3分以上待てないんですけど(笑)。料理の話ついでに聞いてみたいことがあります。器をつくるときに何を重視していますか。

岡崎: 一番は使いやすさです。立体的な表現をした装飾部分があるので、特に「使いやすいサイズかどうか」は意識しています。基本的には食卓に馴染みやすいものをつくりたいです。

■今求められるアートの特徴は飾りやすさ

落合: 岡崎さんの作品はトンボをモチーフにしたものが多いですよね。どうしてトンボなんですか。

岡崎: もともとガレなどアールヌーヴォーの作品が好きなんです。生き物や植物などが立体的に表現された陶器ってないなあ、つくってみたいなと思っていました。

落合: ガラス彫刻とは飛び出し方が全然違いますよね。

岡崎: おしとやかな飛び出し方じゃないですか? サラダやお肉料理、お魚料理などが乘るので、あまりにも飛び出したら使いづらいかな、と思って(笑)。

落合: 上に乗る料理が主役になるような器。

岡崎: 器はあくまで脇役なんです。だから、強く主張しすぎないようにしています。

落合: すん、って感じがします。しなやかさを感じる器なんですよね。

岡崎: 淵に花びらを200枚くらい付けた器もあるんですよ。最近はカラフルなものも作るようになりました。

落合: 岡崎さんは「日常使いできる器をつくっている」とおっしゃるじゃないですか。一口に陶芸家と言っても、いろいろなタイプの作家さんがいますよね。

岡崎: 日用品か伝統工芸、コンテンポラリーアートを目指す方、大きく3タイプに分かれると思います。でも、今はそれぞれのタイプが入り混じった時代ではないでしょうか。例えば、私(40代)くらいの世代の陶芸家だと、伝統工芸系の師匠の下で学んだとしても、そこで教わった技法を継承するのではなく、まったく別のやり方を選んでいる、なんてことも珍しくありません。私は日用品としての器を作っていますが、現代アートギャラリーの小山登美夫ギャラリーでも個展をさせていただいています。

落合: 販路はかなり自由になってきていますよね。今はネットでもギャラリーでも売れる。

岡崎: イッセイ ミヤケを辞める頃、ライフスタイル系のお店が増え始めていましたね。今はファッションブランドのお店で器が売られていることも普通にあります。そういう流れが広がっているのと同時に、食空間のクオリティも上がっています。器にこだわるシェフたちから「日本人作家がつくる唯一無二の器を使いたい」とオーダーをいただくことも増えました。

落合: 作家性のあるものを使いたい気持ちはわかります。ものづくりをしている身として、日常にアートを飾りたい人は増えているなと実感します。特に、メディアアートをやっていると、飾りやすい作品の方がいいんだろうな、って思うんです(笑)。だから、僕の作品で今増えているのは写真。飾ってくれる人は着々と増えていますよ。

岡崎: 写真や絵などは比較的手を出しやすいですよね。陶芸でいうと、骨董の世界に興味を持つ方は一定数います。骨董について、私個人の想いを話すと、例えば明治時代につくられたものだと、令和の今、自分の手元に到達するまでとても長い時間存在していた、というロマンにキュンとします。縄文式土器や弥生式土器が現代で出土するくらいじゃないですか。それを思うと、気持ちが引き締まりますよ(笑)。

落合: そういえば、器をなくすことってあまりないなと思いました。絵はなくなることはあっても。

岡崎: 器は火に強いんです。だから残る。

落合: なるほど。いま陶芸やろうかなと思い始めてます(笑)。錆びに強いのも魅力ですよね。今日はお話しできて楽しかったです。ありがとうございました。

PEOPLE

岡崎 裕子

Yuko Okazaki

1976年 東京都生まれ。
1997年株式会社イッセイ ミヤケに入社、広報部に勤務。3年後退職し、茨城県笠間市の陶芸家・森田榮一氏に弟子入り。4年半の修行の後、笠間市窯業指導所釉薬科/石膏科修了。
2007年神奈川県横須賀市にて独立。小山登美夫ギャラリー所属。

落合 陽一

Youichi Ochiai

メディアアーティスト。
1987年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。筑波大学准教授・デジタルネイチャー推進戦略研究基盤基盤代表・JST CREST xDiversityプロジェクト研究代表・一般社団法人xDiversity代表理事。
2015年World Technology Award、2016年Prix Ars Electronica、EUよりSTARTS Prize受賞。Laval Virtual Awardを2017年まで4年連続5回受賞など、国内外で受賞多数。 個展として「Image and Matter (マレーシア・クアラルンプール,2016)」や「Imago et Materia (東京六本木,2017)」、「ジャパニーズテクニウム展 (東京紀尾井町,2017)」、「落合陽一、山紫水明∽事事無碍∽計算機自然」(東京・表参道,2018)」、「質量への憧憬(東京・品川、2019)」など。グループ展では「Ars Electronica Festival」「SIGGRAPH Art Gallery」,「県北芸術祭」や「Media Ambition Tokyo」などに参加。近著として「日本進化論(SBクリエイティブ)」、「デジタルネイチャー(PLANETS)」、写真集「質量への憧憬(amana)」。

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